花を奉る 石牟礼 道子
春風萌すといえども
われら人類の劫塵(ごう)いまや累なりて
三界いわん方なく昏し
まなこを沈めてわずかに日々を忍ぶに
なにに誘(いざ)なわるるにや
虚空はるかに一連の花
まさに咲(ひら)かんとするを聴く
ひとひらの花弁
彼方に身じろぐを
まぼろしの如くに視れば
常世なる仄(ほの)明りを
花その懐に抱けり
常世の仄明りとは
暁の蓮沼に揺るる蕾の如くにして
われら世々の悲願をあらわせり
かの一輪を拝受して寄辺(よるべ)なき今日の魂に奉らんとす
花や何
ひとそれぞれの涙のしずくに現れて咲き出づるなり
花やまた何
亡き人を偲ぶよすがを探さんとするに
声に出せぬ胸底の想いあり
そを取りて花となし
み灯りにせんとや願う
灯らんとして消ゆる言の葉といえども
いずれ冥土の風の中にて
おのおのひとりゆくときの花あかりなるを
この世の有縁(えにし)といい
無縁ともいう
その境界にありて
ただ夢のごとくなるも花
かえりみれば
目裏(まなうら)にあるものの御形
かりそめのみ姿なれどおろそかならず
ゆえにわれら
この空しきを礼拝す
然して空しとは云わず
現世はいよいよ地獄とや云わん
虚無とや云わん
ただ滅亡の世迫るを待つのみか
ここに於いて
われらなお
地上にひらく一輪の花の力を念じて合掌す
2011年4月大震災の翌月に
これは、西日本新聞に掲載された詩だそうです。
少しでも多くの方に届くよう、転載させていただきました。
もし不具合がありましたら、この記事を消します。
わたしは毎日海を見るたびに、ただ心の中で合掌しています。
われら人類の劫塵(ごう)いまや累なりて
三界いわん方なく昏し
まなこを沈めてわずかに日々を忍ぶに
なにに誘(いざ)なわるるにや
虚空はるかに一連の花
まさに咲(ひら)かんとするを聴く
ひとひらの花弁
彼方に身じろぐを
まぼろしの如くに視れば
常世なる仄(ほの)明りを
花その懐に抱けり
常世の仄明りとは
暁の蓮沼に揺るる蕾の如くにして
われら世々の悲願をあらわせり
かの一輪を拝受して寄辺(よるべ)なき今日の魂に奉らんとす
花や何
ひとそれぞれの涙のしずくに現れて咲き出づるなり
花やまた何
亡き人を偲ぶよすがを探さんとするに
声に出せぬ胸底の想いあり
そを取りて花となし
み灯りにせんとや願う
灯らんとして消ゆる言の葉といえども
いずれ冥土の風の中にて
おのおのひとりゆくときの花あかりなるを
この世の有縁(えにし)といい
無縁ともいう
その境界にありて
ただ夢のごとくなるも花
かえりみれば
目裏(まなうら)にあるものの御形
かりそめのみ姿なれどおろそかならず
ゆえにわれら
この空しきを礼拝す
然して空しとは云わず
現世はいよいよ地獄とや云わん
虚無とや云わん
ただ滅亡の世迫るを待つのみか
ここに於いて
われらなお
地上にひらく一輪の花の力を念じて合掌す
2011年4月大震災の翌月に
これは、西日本新聞に掲載された詩だそうです。
少しでも多くの方に届くよう、転載させていただきました。
もし不具合がありましたら、この記事を消します。
わたしは毎日海を見るたびに、ただ心の中で合掌しています。